就活のヒント
Vol. 1 博士の就活の基本的な特徴
世の中には様々な就活本が溢れていますが、そのほとんどは理学博士の民間就活にはあまり役に立ちません。学部、せいぜい修士までの就活を想定しているからです。博士の就活と学部・修士の就活とでは、基本的な人材観(求人応募者に対する評価規準)が違います。
学部や修士の就活で大事になるのは、学生の潜在能力です。どんなに優秀な学生であっても、学部卒や修士卒の時点で何か明確な強みをもっている人はほとんどいません。そこで学部や修士の就活では「いま何ができるか」ではなく「入社後に何ができるようになるか」をアピールすることになります。具体的に言えば、基礎学力(例:旧帝卒です!)、積極性(例:サークルの副会長です!インターンシップに参加しました!)、謙虚さ(例:体育会系です!)あたりです。
面接が大喜利になったり(例:自分を動物にたとえてください)、マナー大会になったり(例:ノック3回はトイレ用のノックですよ怒)することには、こうした学部・修士ならではの就活事情が関係しています。
一方で、博士の就活では「違いを生み出すこと」が問われます。企業が博士人材を雇用する動機はそれぞれですが、共通しているのは自社の研究開発を牽引したり、チームにブレークスルーをもたらしたりできるような「研究開発のリーダーやエース」を雇用したいという思いです。(この点について興味のある方は科学技術・学術政策研究所の『民間企業における博士の採用と活用』を読んで見ましょう。企業の本音が見て取れておもしろいですよ。)
実際、博士の学生の自己分析の手伝いをしていると、博士の学生が研究を通して自分だけの強みを身に着けていることをかなり実感できます。例えば、理論研究をしている学生は基本的に数理科学的な思考力に優れていますが、その中には「紙と鉛筆」で数理科学上の難題の解を求めることができるような「数学的思考力」に優れた学生もいれば、計算機を使ったシミュレーションに長けた学生もいます。さらに、数学的思考力といっても、抽象度の極めて高い数学に取り組んでいる学生もいれば、自然現象やビッグデータを読み解くためのツールや考え方を数学を使って構築しようとしている学生もいます。シミュレーションについても同様に多様です。分野によって使っているプログラミング言語はかなり違いますし、プログラミング言語を「書く」ことを得意とした学生もいれば、「使う」ことを得意とした学生もいます。もちろん、理学研究科では理論研究だけではなく、実験や観測、フィールドワークに取り組んでいる学生もたくさんいますが、その内容はもう本当に多彩です。一々例を挙げるのは無理…というくらいその内容もアプローチも方法論も装置も多種多様です。
おそらく、このような多様性は博士課程が学生の自律的な研究を中核にして構成されていることと関係があります。博士の学生は自分の研究を進める中で大小さまざまな問題にぶちあたります。そしてこの問題を解決するために、いわば必要に応じて様々な知識や技能を身に着けていきます。つまり博士課程で何を学ぶかは誰にも予想できないところがあるわけです。このような柔らかい構造をもった教育課程が博士の多様な個性を生んでいるのでしょう。そして企業が博士に期待しているものは、通り一遍の知識や技能というよりも、自律的な問題解決の過程を通して身につけてたオンリーワン・ナンバーワンの個性です。
もちろん、入社1日目から即戦力になるほどの実力をもった博士はあまりいないでしょうから、この意味においては潜在能力も大事はあります。しかし、だからといって博士課程で身につけた知識や技能、態度を無視して、学歴やガクチカ(学生時代に力を入れたこと)をアピールするのは宝の持ち腐れとしか言いようがありません。博士の就活で勝負の分け目となるのは潜在力よりも個性であるということは理解しておいてください。自分のオンリーワン・ナンバーワンの強みがどこにあるのかしっかりと理解すること、そしてその強みが活きる企業を探すことが重要です。つまり、博士の就活では博士と企業のマッチングが重要だということです。
こうした観点から「就活のヒント」では、理学研究科博士課程後期で身につく強みやそれを活かした就活のあり方について説明していきます。博士の学生さんはもちろん、博士課程後期への進学を検討している学部生や修士の学生にも記事を読んでほしいと願っています。
就活のヒント一覧
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